「居眠り磐音」佐伯小説初の映画化

目次

1.作品情報
1-1.作品
1-2.あらすじ
1-3.「居眠り磐音」原作者・佐伯泰英
1-4.「居眠り磐音」監督・本木克英

2.見どころ
2-1.居眠り磐音」の殺陣
2-2.居眠り剣法
3.最後に

1.作品情報

1-1.作品

これまで殺陣コラムでは渋めの作品を紹介してきましたが、今回は最新時代劇を紹介します!2019年公開作品の「居眠り磐音(いわね)」です。

原作は佐伯泰英の「居眠り磐音 江戸双紙」シリーズで、この作品は2002年~2016年まで刊行された全51冊からなる大人気時代小説で累計発行部数2000万部を超える大ベストセラーとなりました。

これまでこの作品の映像化は山本耕史主演のNHKテレビ時代劇「陽炎の辻〜居眠り磐音 江戸双紙〜」のみで第1シリーズから第3シリーズ、スペシャル版も含め2007年~2017年にかけて放送されましたが、佐伯泰英作品の映画化は今回が初めてです。

監督は松竹で活躍し、「超高速!参勤交代」で第38回日本アカデミー賞優秀監督賞を受賞した本木克英監督。主演は時代劇初主演となる松坂桃李。「居眠り剣法」と称される独特な剣の遣い手でとてつもなく腕が立つがとっても優しい坂崎磐音を演じました。ヒロインを木村文乃、芳根京子が務め、佐々木蔵之介、谷原章介、中村梅雀、柄本明といった時代劇の常連達が脇を固めます。

1-2.あらすじ

郷・豊後関前藩で起きたある哀しい事件により幼馴染みを失い、祝言を間近に控えた許嫁・奈緒(芳根京子)を残して脱藩した坂崎磐音(松坂桃李)。全てを失い、浪人の身となった磐音は、江戸で長屋暮らしを始め、昼間はうなぎ屋、夜は両替屋・今津屋の用心棒として働き始めるが…。

1-3.「居眠り磐音」原作者・佐伯泰英

佐伯泰英(さえき・やすひで)は日大芸術学部卒で、映画・テレビCMの撮影助手を経て、カメラマン、ノンフィクションライターとして活躍。

1981年「闘牛士エル・コルドベス 一九六九年の叛乱」でドキュメント・ファイル大賞を受賞。しかし現代物では売れず、1999年、時代小説に転向。「密命」シリーズを筆頭に作品を次々と執筆し高い評価を得ます。

作家が単行本や新書を発行せずにいきなり文庫スタイルで作品を発表させる「文庫書き下ろし」スタイルを確立し、「居眠り磐音」シリーズは1冊をわずか20日のハイペースで執筆し、14年間で51作にまで登りました。

佐伯泰英のインタビューによるとその執筆スタイルは、資料を準備して構成を考え物語をねってから書くのではなく、昨日書いた何行かを読み直し、磐音はこう言ったならこう行動するな…と考えて浮かんできた言葉をそのままパソコンに打ち込むのだそうです。季節はいつか、場所はどこか、そしてそこに刀を差した浪人が居て、財布にはいくら入っているのか、どこに行こうとしてるのか…ということを考えるとおのずと物語が進むのだと語っています。

1-4居眠り磐音」監督・本木克英

本木克英監督は松竹出身で時代劇映画も多く手掛けてきた監督です。

早稲田大学政治経済学部卒業後の就職活動時に、14年ぶりに募集していた松竹の助監督募集に応募し入社。森﨑東、木下恵介、勅使河原宏など松竹の名監督に師事。1998年「てなもんや商社」で監督デビューし第18回藤本賞新人賞を受賞します。松竹の国民的映画「釣りバカ日誌」のシリーズ11作~13作までの監督も務め、2014年にはエンターテイメント系時代劇「超高速!参勤交代」が大ヒット。日本アカデミー賞で優秀監督賞を受賞しました。

本木克英監督が映画作りにおいて大事にしているのはキャラクター作りだそうで、基本的に映画はストーリー作りが大事にされる傾向がある中、登場人物に重きを置き、そのキャラクターが何を考えどう行動するかを始めに掘り下げ、登場人物一人一人の違いを描き分けていけば、演じる役者さんも入り込みやすく物語が動くのだと言います。

それから、娯楽作品をつくる時は特に、「客観的な視点」がとても大切で、監督であると同時に観客としての視点を持ち、作った映像を「観客から見ても面白いのか?」と疑う視点を常に意識しているそうです。

「居眠り磐音」は、「超高速!参勤交代」のような娯楽性の強い時代劇を作ったのに対して本来の伝統的な時代劇を作り、時代劇が映画テレビ共に少なくなった昨今に、かつて松竹の大船や京都の撮影所で学んだ時代劇特有の技術を大事にし、かつて時代劇黄金期に役者が一人で出来るのが当たり前だった着付けや所作の技術を若い世代にも受け継いでほしいという想いがあったそうです。

2.見どころ

2-1.居眠り磐音」の殺陣

「居眠り磐音」の数々の殺陣シーンの中でも目を見張る殺陣は磐音の親友・小林琴平との死闘でしょう。映画は序盤から「居眠り磐音」を語るには避けては通れない悲劇のプロローグから始まります。

磐音と琴平、同じく親友の河出慎之輔が江戸の勤番から国許に戻ると慎之輔の叔父・蔵持十三から慎之輔の妻で琴平の妹の舞が不貞を働いているという間違った情報を話され、慎之輔は舞を斬り捨ててしまいます。知らせを受けた琴平が遺骸を引き取りに来ると、蔵持と慎之輔を斬ります。琴平はその後事件に関わった者8人を斬り殺します。藩から送られた上意討ちの討手と共に駆け付けた磐音が事件の真相を聞かせると、琴平が望んだのは、磐音との勝負だったのでした。

小林琴平役の柄本裕の迫力が凄いです。8人を斬り殺した琴平が屋敷から出てきた姿は、その返り血が体中に付いて満身創痍の状態。道場で磐音と1、2を争うほどの遣い手だった琴平。明るい人柄の中に得体の知れない不気味さが隠れていて、舞の遺骸を引き取りに来るシーンからその不気味な鋭さが光ります。柄本裕の小林琴平は見事でした。

松坂桃李自身も一番大変だった殺陣はこの柄本裕との殺陣だったと振り返っています。派手なチャンバラではなく、1手1手が“会話”になるように、お互いの想いだったり叫びたい気持ちを込めて殺陣を演じることを意識したそうです。この殺陣は、血のりも使われ生々しくも悲しい殺し合いに仕上がっています。

そのプロローグが終わり脱藩して浪人となった磐音は江戸でどじょう捌きのバイトをしていましたが、家賃を払ってほしい長屋の大家さんの紹介で江戸幕府お抱えの両替屋・今津屋の用心棒となり事件に巻き込まれていきます。ここからはプロローグとは変わってテンポのよく見やすい江戸の事件簿となり、磐音の優しい人柄と剣が冴えわたります。小説でもここから磐音は江戸で活躍し、権力者からも用心されるような用心棒となるわけですね。今津屋と敵対する両替屋の阿波屋有楽斎(柄本明)から送られる用心棒も闘いに飢えたユニークな奴らで、その悪者ぶりも面白い。二刀流の刺客との闘いもあります。

やはり派手なチャンバラではなく、敵との押し引きのわかりやすい殺陣で見やすく仕上がっている私は好きな殺陣です。

松坂桃李はアクションの経験はあったようですが本格的な殺陣は初めてで一か月の殺陣稽古をしてから撮影に望んだそうですが、短い期間でここまでの殺陣が出来るとは…。

2-2.居眠り剣法

磐音は、「居眠り剣法」と揶揄される剣を遣います。その剣とは小説で「縁側で日向ぼっこしている老猫のような風情から眠っているのか起きているのかわからない」と表現されていますが、その実態を著者もよく分からないと語っています。映画化するにあたり、殺陣師と松坂桃李も話し合い構えとスタイルが固まっていったと言いますが、その構えは剣をダラリと下ろし剣を握る右手の甲に下から左手のひらを添えるという下段の構えの変形で、その剣は自分から打ち込むことはほとんどなく引きの姿勢で、相手の剣を引いて避ける手が多く、後の先で攻撃に転ずるというスタイルだ。

時代劇で描かれる剣の遣い手とはどっしりと構えていて、相手の攻撃をさばいて攻撃するという描かれ方が多いと思います。もちろん「用心棒」の三十郎のような自分から仕掛けるスタイルの時代ヒーローもいます。そもそも「後の先」とは何か。

剣術の用語で、「先」には「三つの先」があります。「先々の先(せんせんのせん)」「先(せん)」「後の先(ごのせん)」です。相手の剣の動きが起こるより先に、「敵の起こりを機微の中に見つけて直ちに仕掛け」て打つのが「先々の先」。

敵はまだ形になっていないところを、こちらから始めて形に表すので、見ている人からはこちらが一方的に打ち込んでいるように見える「先」。

敵のほうから隙を見て打ち込んできたものを、斬り落としたり防いで流したりした後で、敵のひるみに乗じて打ち込んで勝つのが「後の先」。の三つです。

この三つを意識して殺陣を考案すると、受け攻めが見ている方にもわかりやすく見えるでしょう。

3.最後に

「居眠り磐音」は監督も語るように近年の時代映画の中でも伝統が重んじられていて時代劇の本来の面白さが味わえる作品になっていると思います。個人的にはプロローグが終わって江戸の話になって登場した、磐音の住む長屋の大家・鉄五郎(中村梅雀)の娘で今津屋の女中として働くおこん(木村文乃)のチャキチャキの江戸っ子娘感が好きでした。中村梅雀とのやり取りも小気味良くていい。こういう役がこんなに似合うのは木村文乃の他には中越典子かなぁと思ったら、テレビシリーズで中越典子がおこんを演じていました。

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