『股旅』【時代劇映画コラム】

目次

1.「股旅」の作品情報
1-1.作品
1-2.「股旅」のあらすじ
1-3.「股旅」の監督「市川崑」

2.「股旅」の見どころ
2-1.「渡世人」の徹底したリアリズム
2-2.「股旅」の殺陣 【喧嘩殺法】
2-3.最後に

1.「股旅」の作品情報

1-1.作品

渡世人の世界で名を売ろうと、社会の底辺で懸命にもがき、生きる3人の若者を描いた異色の青春アウトロー時代劇。

制作は、日本アート・シアター・ギルド(ATG)。1960年に発足して以来、非商業的な芸術品を制作し、日本の映画史に多大な影響を与えました。

「股旅」は、市川崑監督がATGと初めてタッグを組んだ意欲作。
低予算の中、撮影現場に寝泊まりし、音楽までを自作。
それまで数々の作品を生み出した監督が、映画作りの原点に帰った作品です。

1-2. 「股旅」の あらすじ

ひとかどの渡世人を目指し農家を飛び出した源太(小倉一郎)、信太(尾藤イサオ)、黙太郎(萩原健一)は、貸元(賭場をしきる親分のこと)から貸元を渡り歩き、一宿一飯の恩を受ける日々を送っている。
一宿一飯とは、宿と食事、わらじ銭をもらう代わりに、その一家のために命をかけなければならないという義理だ。

この日もある貸元の世話になると、深夜起こされ、敵やくざの夜討ちがあるからと助太刀を頼まれ、乱闘が始まる。

場面は変わり、源太と信太はまた新たな貸元の世話になり、明朝出入り(決闘)の助太刀をする。
3人は再び出会うと、銭を得るために素人衆の賭場で刀を抜き、賭場を荒らす。
3人は番亀一家に草鞋をぬいだ。源太はここで、母と自分を置き去りにしていなくなった父・安吉(大宮敏充)と再会する。

安吉は金貸しの取り立てをしながら女と暮らしていたのだった。
夜、安吉の家に行く途中井戸端で髪を洗っていた若い人妻のお汲(井上れい子)を見た源太は、背後から組み付き、納屋に連れ込む。

ある日、源太は番亀親分から、安吉が敵対する組と内通しているから首を取れと命じられる。
信太と黙太郎に止められるも、「義理は義理だ!」と安吉を殺害してしまう。
親を殺し凶状持ち(罪を犯して追われている者)になった源太だが、番亀親分はわずかなわらじ銭のみを与え、3人を追い出す。

こうして、3人と、源太が連れ出したお汲を加えた4人旅が始まったのだが・・・。

1-3. 「股旅」の監督「市川崑」

市川崑(いちかわ こん)1915-2008

1948年にデビュー以降、東宝、日活、大映とさまざまな映画会社を股にかけ、「ビルマの竪琴」「東京オリンピック」「犬神家の一族」などジャンルにしばられることなく常に話題作を世に送り続けました。

どの作品においても徹底した美意識が貫かれ、日本映画界に独自の地位を築き、山田洋次、三谷幸喜、庵野秀明などの著名な監督達も市川崑ファンを公言しています。

テレビ時代劇「木枯らし紋次郎」シリーズ監修と演出を務めたことでも有名です。
「木枯らし紋次郎」は、市川崑監督が「股旅」を撮るための資金集めでしたが、それまでの時代劇ヒーローとは全く異なるヒーロー像を作り上げ、その斬新な演出と殺陣で、最高視聴率38%を記録した大人気番組となりました。

2. 「股旅」の見どころ

2-1.「渡世人」の徹底したリアリズム

それまでの股旅ものといえば、日本人の情に訴えかける「泣かせ」の物語が多かったのですが、市川崑監督は「股旅」において、渡世人の日常を徹底したリアリズムで淡々と描くことで、「泣かせ」の部分を解体し、冷たく乾いた世界観を構築しました。

主人公3人の格好からして、雨風を受けてボロボロになった道中合羽に、破れた三度笠、泥だらけの足、暗い表情。そしてみじめな生活。貸元に与えられるご飯も、白米ではなくヒエやアワなどのようです。

冒頭5分は、3人の「軒先の仁義を失礼さんにござんすが、手前控えさせて頂きやす。」と続くような渡世人の挨拶である「仁義切り」が続きます。その仁義切りも、あまりに早口でさらに訛っているので何を言っているのかわからないところが写実的で面白く、引き込まれます。

そうした徹底したディティールの積み重ねが、「粋でいなせな渡世人」像を脱却させ、「逃亡農民のなれの果て」というリアルな新しい渡世人像を作り上げました。

2-2. 「股旅」の殺陣 【喧嘩殺法】

「股旅」の最大の見どころは、やくざ同士での立ち回りです。「股旅」に侍は登場しませんので、その立ち回りも侍同士や侍とやくざの立ち回りとは全く違っていました。

その立ち回りはとにかく泥臭く、走り回りながらただやみくもに刀を振り回し、突いては外し、外しては転び、また転び…といった具合で、当時画期的な殺陣として見る者を魅了しました。

この画期的な殺陣は、「股旅」のデモンストレーションである「木枯らし紋次郎」で誕生したのですが、実は最初から意図して出来上がっったものではなかったそうです。

紋次郎役の中村敦夫は、紋次郎役に抜擢された当時、時代劇の素養のない無名俳優で、最初は正統な殺陣を振り付けされたのですが、まったくサマにならなかったそうです。
それを見た市川崑監督が「百姓出身の渡世人が侍みたいな剣さばきは出来ないだろうから、滅茶苦茶な喧嘩殺法にしたらどうか。」と助け船を出すと、しばらく考え込んでいた殺陣師の美山晋八は、「とにかく、野原や川を走り森に逃げ込め。
追手がばらけたところで反転し逆襲しろ。つまずこうが転ぼうが、とにかく刀を振り回せ。」と言い、手持ちカメラでドキュメンタリーを追うように廻し続けたのです。

こうしてスピードと迫力に満ちた殺陣が生まれたのです。紋次郎はヒーローとして描かれていますが、「股旅」にヒーローは出てこないので、紋次郎よりさらに泥臭い殺陣になっています。

2-3.最後に

市川崑監督の時代劇はいくつか観ましたが、ヒーローもののかっこいい時代劇とは違ったその独特な雰囲気に引き込まれます。

どの作品でも音楽を使っているのですが、盛大な音楽ではなく、淡々とした低いトーンの音楽が多いです。

そんな音楽が、市川崑の独特な映像を引き立てています。

「股旅」での殺陣シーンでは音楽は使っていません。そして遠目から撮るところも、殺陣をリアルに見せる要素のようです。

斬られた方のリアクションも、例えば膝上あたりを斬り付けられて、「あ…!痛い痛い痛い…。」と静かに痛がっている様子が妙に生々しく感じられました。刀もナマクラで、斬られても浅い傷なんだろうなという細かいところもその描写から伝わってきます。

この殺陣でケガ人は出てないのかなというほどとにかく斬りかかってはつまずき転びの連続です。

お互いに目や挙動や声で合図を出し合いながら、ケガをしない。というのが殺陣の大前提ではありますが、「股旅」の殺陣はまったく違ったものなので同じような殺陣をやろうとすると危ないですが、

構えやリアクションに表現を加えて味わってみるのもいいと思います。そんな時は、ぜひこの「股旅」を観てみてください!

【参考文献】

時代劇は死なず   著者:春日太一

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