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椿三十郎(1962)「用心棒」に続く黒澤ショック!!

時代劇作品紹介

講師の渡辺です!今年最初に紹介するのは満を持してこの作品!椿三十郎。
「オススメの時代劇は?」と聞かれるとやっぱり出してしまうのがこの作品です。
実は非常に喜劇的なトーンの映画で見やすいです。
何といっても三船敏郎!この殺陣はもはや伝説!

目次

1.作品概要
1-1.あらすじ
1-2.作品
1-3.主な登場人物
1-4. 原作の主人公は超人間臭い冴えない浪人だった!
1-5.三船敏郎の殺陣

2.椿三十郎の殺陣
2-1. 冒頭の殺陣
2-2. 居合での3人斬り
2-3. 20人斬り
2-4. 仲代達矢との一騎討ち

1.作品概要

1-1.あらすじ

ある夜、人気のない社殿で九人の若侍が密議していた。
城代家老に汚職に関する意見書を提出したが受け入れられず、逆に大目付に諭され鬱憤を貯めていたのだ。
そこへ物陰から一人の浪人が現れ、大目付が黒幕であると助言。
現状はその通りで浪人は若侍達を手助けする事になり、お家騒動に巻き込まれていく。

1-2.作品

1961年公開で大ヒットした「用心棒」の続編。
原作は山本周五郎の「日日平安」。黒澤明はこの作品を比較的原作に忠実に映画化しようと脚本を書いていたが、東宝に受け入れられずお蔵入り。
その後「用心棒」の大ヒットから続編を作ってほしいと東宝に頼まれ、お蔵入りしていた日日平安の主人公を「用心棒」の三十郎に置き換えました。

この映画はそれまでにはなかった大量の血糊が有名で、以後用心棒や椿三十郎のような迫力のある殺陣と血糊を使ったスプラッターな手法を使った時代劇が多く作られることになり、時代劇の歴史を大きく変えることになりました。
この作品は前作に比べてコミカルな物語の進み方で、とても見やすいです。
世間知らずのために勝手なことばかりする若侍達とそれに苛立つ三十郎とのやり取りなどが非常に喜劇的で、前作よりさらに娯楽性が増しているように思います。
殺陣振付は久世竜。武術指導は香取神道流の師範・杉野嘉男。

1-3.主な登場人物

椿三十郎…三船敏郎
凄腕の浪人。凄まじい強さを持つと共に相当な切れ者。武士の内情にも詳しいことから、元武士だと思われる。前作「用心棒」でやくざの勢力争いで荒れ果てた宿場町にフラッと現れ、策を立ててやくざを壊滅させたあの「桑畑三十郎」と同一人物だと思われる。
常に冷静で口も悪いが、実は困っている人を放っておけない人情を持つ。

井坂伊織…加山雄三
城代家老、睦田弥兵衛の甥。次席家老黒藤と国許用人竹林の汚職を知り城代に意見書を出す真面目な武士。8人の仲間と汚職を告発しようとするも黒幕の大目付菊井に騙され一網打尽にされそうになるところを三十郎に助けられる。
三十郎を含め10人で奮闘するも9人とも世間知らずから三十郎の足を引っ張ってしまう。

室戸半兵衛…仲代達矢
大目付菊井の懐刀の家臣。腕が立つ。
菊井が悪い奴と知りながら仕え、「俺も相当悪い。」と言ってのける不気味な男。
菊井に天下を取らせ自身も甘い汁を吸おうと企んでいる。神社での三十郎の腕を見て仕官に誘う。

1-4. 原作の主人公は超人間臭い冴えない浪人だった!

椿三十郎の原作は山本周五郎の短編小説「日日平安」という作品です。
しかしこの作品の主人公は三十郎ではなく、菅田(すげた)平野(ひらの)という名の、青白く痩せていてツギハギだらけの袴を着た浪人です。

この浪人、映画の三船敏郎とは全く違うキャラクター。
物語の冒頭、菅田は道の草原で切腹をするふりをし、通りがかった井坂を呼び止めて介錯を頼みます。
井坂が刀を抜くと菅田は泣きそうな顔になり、「頼んだからといってそう安直にされるというのはどうかと思いますね。」と言う。そしてお金を恵んでもらおうとするのです。
藩のお家騒動を知ると、これは仕官のチャンスだ!逃すか!と腕が立つわけでもないですが助太刀を申し出て知恵を頑張って絞り出し、解決に向かうという物語なのです。しかも最後は三十郎と違って仕官します。

黒澤監督はこの物語の主人公を凄腕の浪人、「用心棒」の主人公三十郎へと大胆に置き換えたのですね。
原作がここまで違う主人公だったとは面白いですね。
黒澤監督は山本周五郎を愛した監督で、山本周五郎の作品を「椿三十郎」「赤ひげ」「どですかでん」と三度映画にしています。

1-5.三船敏郎の殺陣

これまでも何度も取り上げてきた三船敏郎ですが、改めてその殺陣に迫りたい。
三船敏郎といえば何といっても「用心棒」「椿三十郎」で魅せた、本当に人を斬っているかのような迫力の殺陣。鋭い眼光でバーッと相手に向かっていきズバーっと仕留める。擬音語が多くなってしまいましたがそうなのです。
黒澤監督がそれまでの華麗な殺陣ではなく、武術の間を意識した「本式の殺陣」を目指し、三船敏郎の運動能力も相まって「黒澤ショック」を映画界に与えました。

この二作品で三船は竹光を本当に当てています。いわゆる殺陣の間合いではなく本当の剣の間合いで、バシッバシッと相手の身体に当てて、さらにその反動を使って次の相手を斬っている。だからこそあの迫力なのですね。
絡みの人達は撮影後、身体に何本ミミズ腫れがあるか数えていたそうですが、三船敏郎はそれをわかっていて気遣い、「皆で元気をつけてこいよ。」とお小遣いを渡したりしていたそうです。

三船敏郎が殺陣をどこで学んだかですが、殺陣師の宇仁貫三が語るには、特に特定の師匠はいなく自分で研究していたようです。日本刀を何振りか所持しており居合刀も持っていたのでそれで練習していたようです。
しかし三船敏郎の剣技の底には香取神道流の師範杉野嘉男の指導があったのです。

杉野先生はこの頃黒澤映画を中心に剣術指導をしており、三船敏郎は「宮本武蔵」「柳生武芸帳」「七人の侍」「隠し砦の三悪人」などで指導を受けています。
つまりは三船敏郎の殺陣の根底には古武術があったのですね。重い居合刀で練習していたのなら、武術的な身体の遣い方を意識していたということでしょう。

三船敏郎の殺陣でよく言われるのが、斬っている間は呼吸を止めていることです。
それがあのスピードの秘密らしく、一人一秒、十人なら十秒で斬っていると言われるあの速さの中で、終わるまで一切止まらず呼吸も止めている。呼吸をしていたのではあのスピード感は出せないからです。
そのため三船敏郎はカットが入ると完全に息切れし、ゼエゼエしていたようです。身体の調子が良くない時は長回しの殺陣じゃなくて何人か斬ったらカットしてくれと頼んだそうです。
本来は殺陣で呼吸はとても大事なので立ち廻り中に止めるべきはないですが、あの迫力にはそれが必要だったのですね。

2.椿三十郎の殺陣

もはやこの映画の殺陣はすべて伝説的。
すべて語りたいところですが、見どころの殺陣を4つ紹介します。

2-1. 冒頭の殺陣

まずは冒頭、神社の社殿での殺陣。
若侍をここへ集まらせ一網打尽にしようと企んでいた大目付菊井の手勢を三十郎が単身で暴れ退散させる殺陣。
いきなり冒頭から凄い。敵はざっと35人ほどいる…。これを三十郎は鞘に収まったままの刀で室戸が止めるまで10人ほど次々と叩いていくというもので、ここからもう無双ぶりを見せつける。
いやあどう見ても本気で当てている!社殿に入り込んで来た奴らを外にたたき出すところも力いっぱい押しているし耳を引っ掴んでいるし、押し出して、後から上がろうとしてきた奴らも含めて階段から6人くらいまとめて転げ落ちているところも本当に落ちている。一番先に落ちる人大丈夫かと心配になってしまう。大迫力!

2-2. 居合での3人斬り

三十郎が室戸に仕官を誘われたことを利用して敵の懐に潜入するも、三十郎を信用出来ない4人の若侍達が尾行して捕まる。三十郎は助け出すためにそこにいる侍達を全員斬る。
まずは若侍の仲間が来るかもしれないからと室戸の命令で手勢を呼びに出た3人を「俺も一緒に行く。」と同行するフリをして即座に斬り捨てる。
ここも凄い。まず3人の先頭に立ち、ちょっと一緒に歩いたら左手の逆手で刀を抜いて後ろの一人を刺し、即座に順手に持ち替えてそのまま刀を抜く隙も与えずに全員斬る。
何という居合の早業。完全に騙し討ちだが、目的のためには仕方がない。斬ったら即座に刀を納めて走って戻り、室戸に「あの三人はもう斬られてるぜ。」と伝えたのである。
これは本当に凄い。当時の観客の劇場での反応が気になります。おったまげたでしょう。

2-3. 20人斬り

三十郎の伝えを受けて室戸は自分で手勢を呼びに行く。室戸がいなくなったところで三十郎は4人の縄を切り、そこにいた侍20人を全員斬る。これが有名な20人斬りです。
このシーンは本当に数えきれないほど見返しました。
まずは周りの4人を一気に4秒で斬り捨て(ここの刀の返し技が凄い)、向かってきた主要な侍達を次々に斬る。
ここまでで敵は全員戦意喪失。恐れおののき逃げようとするところを一人も逃さず斬るのです。
三船敏郎のすごい運動量!三十郎の殺陣の大きな特徴が、相手を待ち構えるのではなく自分からどんどん向かっていくというところで、これもそれまでの殺陣になかったものでした。前作用心棒の「ラグビー戦法」がここでも発揮されています。
ちなみに、このあと助けた若侍4人を殴るのですが、これが本気で殴っているそうなのです。
これは撮影中、寒い中血糊をかぶって凍えている絡みの人達がいる中で自分たちだけラーメンを食べていた加山雄三達4人に対する怒りがあったそうです。

2-4.仲代達矢との一騎打ち

最後はやはり伝説の居合斬りの殺陣!室戸との一騎打ちです。
向かい合って30秒ほど時が止まったかのように両者とも動かない。瞬間、両者動いたかと思うと、室戸から凄まじい量の血が噴き出しました。この時の三十郎の早業は何をしているわからず血の量と共に物議を醸したそうです。
このシーンは脚本にも、「とても筆では書けない」と書かれていたそうですが、この時三十郎の繰り出した技は弧刀影裡(ことえり)流居合術の形を元に久世竜が編み出したもので、刀を左手の逆手で抜いて刀の峰に右手を添えて押し出して斬るという技です。名称は「逆抜き不意打ち斬り」。

左手の逆手で刀を抜くというのは少し無理があり、この時の三船敏郎の刀は抜きやすいように短くされていました。
それにしても有名なのはこの時の血の量!仲代達矢の胸元に付けられた、ボンベと繋がった管からとてつもない量の血が噴き出し仲代さん自身も後ろに吹っ飛びそうになったそうです。事前に知らされていなかった若侍達は、三船敏郎が本当に斬ってしまったのかと思って芝居ではなく本当に驚いていました。

このシーンは一発OKとなり、その夜はみんなで徹夜で飲んで喜んだそうです。
しかし実は黒澤監督は血が噴き出ている時の仲代達矢のまぶたが閉じたことが気に入らなくて撮り直しを検討しましたが、撮り直しはもう出来ないと思って、改めてOKにしたそうです。

いかがだったでしょうか?
まだこの映画を観ていないという方、本当に羨ましいです!
私は映画館でも観たことがありますが、何回も観ているのにめちゃくちゃ面白かったです。
フラッと現れ、若侍達に協力して解決し、最後は「あばよ。」と言って見返りも求めずに肩を揺らしながら去っていく。まさにヒーロー!
劇場では拍手が起こったほどでした。

【参考文献】

サムライ 評伝 三船敏郎      著者:松田美智子 
仲代達矢が語る日本映画黄金時代   著者:春日太一

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