劇場版『必殺仕事人』『必殺』の設定 藤田まことの殺陣

    

今回は、あの有名な時代劇「必殺仕事人」の劇場版作品を紹介します。

私自身、必殺仕事人は今まで「殺陣ではなくて殺しでしょ。」と、ほとんど見たことがなかったのですが、見てみると仕事人達の所作がかっこよく、大いに殺陣の参考になることがわかり、はまってしまいました。必殺シリーズはテレビで31作もあり、劇場版も多いです。必殺といえば「必殺仕事人」ですが、これは実はテレビシリーズ第15作目にあたり、それ以前には様々な「必殺」が作られていました。

第15作「必殺仕事人」あたりからお茶の間時代劇として定着したのです。必殺仕事人はその人気から劇場版作品が6作あります。今回はその第1作目を紹介します。

目次

1. 作品
1-1.作品情報
1-2.あらすじ
1-3.必殺シリーズとは
1-4.中村主水
2.見どころ
2-1.「必殺!THE HISSATSU」仕事人メンバーと殺陣
2-2.中村主水の殺陣

作品

1-1.作品情報

テレビ時代劇「必殺シリーズ」の放送600回を記念して作られた、藤田まこと主演の「必殺仕事人」の劇場版。600回もの放送の中で築き上げられてきた必殺の世界を、大仕掛け、豪華キャスト、そして華麗な「殺し」の映像美でスクリーンに映し出しました。1984年作品。

当時、必殺シリーズは人気の絶頂にあったと言えるでしょう。1979年、必殺シリーズの視聴率低迷から、最後になるかもしれないと作られたシリーズ15作目の「必殺仕事人」で視聴率が回復。シリーズ最長の84話を記録しました。原因はこれまで作品ごとに実験的にコンセプトを変えていたのを現状維持に変え、初登場の「飾り職人の秀」役の三田村邦彦の起用で女性の視聴者も獲得したことなどが挙げられます。

続く続編の「新・必殺仕事人」で中条きよしの「三味線屋の勇次」が登場。三味線の糸で敵を吊り上げる有名なあの人です。この作品でストーリーの流れなどを一貫させワンパターン化させたものの、お茶の間の定番時代劇として後期必殺シリーズの人気を決定づけました。主水、秀、勇次も必殺仕事人を代表するキャラクターとなり、今でも必殺といえばこの三人と言えるほどの存在です。

「新・必殺仕事人」から仕事人メンバーにほとんど変更がないまま「必殺仕事人III」、「必殺仕事人IV」も制作され、人気は絶頂。劇場版「必殺!THE HISSATSU」が公開されました。これは面白くないわけがない!

1-2.あらすじ

江戸の方々で、口に六文銭をくわえさせられた遺体が発見される。南町奉行所では役立たず扱いされる同心だが、実は仕事人の中村主水(藤田まこと)は、公務として捜査を始める。一方、主水ら仕事人の元締めである三味線弾きのおりく(山田五十鈴)は、見つかった遺体が仕事人ばかりだと気づき、その裏に大掛かりな陰謀があることを知る。主水らはやがて黒幕が江戸中の“仕事”を独占しようとたくらむ大物仕事人・庄兵衛(石堂淑朗)の一味であることを突き止めるが……。

1-3.必殺シリーズとは

1972年よりテレビ朝日と松竹撮影所によって制作されたテレビ時代劇。これまで31作品作られた壮大な時代劇シリーズです。第一作目は池波正太郎の「仕掛人・藤枝梅安」を原作とした「必殺仕掛人」で、緒形拳が鍼医者の暗殺者藤枝梅安を演じ鍼で相手の首のツボを刺す殺しが視聴者に強烈なインパクトを与えました。必殺シリーズに登場する「闇の商売人」とは、弱いものの晴らせぬ恨みを晴らす暗殺者で、昼はまともな職業につき、夜は依頼を受けて殺しの仕事を遂行する殺しの稼業です。

主人公達は基本的に善人ではなく、お金をもらって殺しをするという悪人です。ただし、法で裁くことの出来ない悪を倒すというのが前提で、そのための情報集めも仕事で相手が本当に仕事するべき相手なのか調べてから任務を遂行します。必殺シリーズにはこれでもかというくらい、自分の私利私欲のために人を何人も犠牲にしているようなとんでもない極悪人が出てきます。そんな悪党達が、商売人の仕事の対象です。

シリーズごとに主人公と、一緒に仕事をする仲間がいますが、お互いに絆を深め合っているのではなく今はたまたま一緒に仕事をしているだけという感じで、仲間がヘマをして自分達の身が危なくなりそうだったり、仲間が足手まといだったりするとその仲間を消そうとしたり、仲間が敵にやられてしまっても黙殺したりと、商売人達の間柄はハードボイルドな内容で、そのあたりが他の時代劇とは一線を画すところでしょう。しかし、闇の商売人は感情で仕事をしてはいけないという掟がありながらも時には、弱いものを犠牲にして私服を肥やす悪人に対して復讐心から仕事をすることもあり、商売人達は善の気持ちと商売人の掟との間で葛藤し、それが一つの作品テーマでもあります。

必殺シリーズの主人公といえば藤田まこと演じる中村主水(なかむらもんど)ですが、必殺シリーズは全31作あり、シリーズごとに、「必殺仕掛人」の緒方拳、「必殺仕置人」の山崎努、「必殺からくり人」の山田五十鈴、「必殺仕舞人」の京マチ子と、違う主人公、違う仲間達が登場します。それぞれが独特の殺しの技を持っています。山崎努扮する念仏の鉄のレントゲン写真を使った必殺骨外しや、三味線の勇次の三味線の糸を首に飛ばして巻き付け吊り上げる仕事、京本政樹はそれに代わって組紐を使いました。飾り職人の秀のかんざし、山田五十鈴の三味線のバチなど、様々な工夫を凝らした殺しのシーンが必殺シリーズの名物ですよね。それが逆光・反逆光を利用し、光と影のコントラストを強めたカット、原色を鮮やかに使った効果、極端なアップや、ピントの移動による奥行きの深い絵作りといった映像のトリックによって、必殺シリーズ各回の仕事のクライマックスを飾りました。

1-4.中村主水

必殺シリーズといえばこの人。必殺を観たことがない人でも「ああ、あの人ね」と思い浮かぶと思います。藤田まこと演じる中村主水(なかむらもんど)です。

表の仕事は江戸の南町奉行所に務める同心(どうしん、現代の警察官)であり、裏の顔が闇の商売人です。同心なので、仕事柄江戸で起きた事件の情報も入ってきますし、裏の仕事で下手人を片付けても自分達商売人に捜査の手が回らないように手を回していると思われるので、商売人の仲間達にとってはとても便利で頼もしい存在です。おまけに剣の達人です。

裏の顔は凄腕の殺し屋ですが、表の奉行所の仕事では無気力で働いており、上役からも毎日いびられている出世の見込みのないうだつのあがらない同心で、町に見廻りに繰り出すと、管轄の商人達から頻繁に賄賂を受け取っています。

妻りつ(白木万理)とその母せん(菅井きん)と住んでいますが、そのうだつのあがらなさで毎日雑な扱いを受けて振り回されています。

これらの表の顔での主水のシーンはコメディタッチで描かれており、ハードボイルドな裏の仕事との対比がはっきりしていて「必殺シリーズ」がお茶の間時代劇になった大きな役割だったのだと思います。特に主水の家でのせんりつとの掛け合いは名物となり、「新・必殺仕事人」ではせんりつの掛け合いのコメディシーンでエンディングにいくというのが定番となりました。せんの「ムコ殿!ムコ殿!」と呼ぶのは流行語にもなったそうです。せんは、この映画では中村主水は仕事人だとささやかれて、主水を仕事人だと疑い、探り始めますが、主水が疑われ対策をしていたので(それが何かはお楽しみ)疑いは晴れました。せんを演じた菅井きんはここで見事な演技を見せ、この作品でアカデミー賞助演女優賞を受賞しました。

中村主水が登場したのは必殺シリーズの第2作「必殺仕置人」からで、この時は主役の山崎努と一緒に仕事をしていましたが、中村主水の人気が爆発したために継続して登場し、第6作の「必殺仕置屋家業」で初めて主役となり、必殺シリーズ全31作中16作品に登場し、「必殺の顔」とも言える存在です。

藤田まことはインタビューで中村主水について、

家の中の中村主水もウソ、奉行所で仕事している中村主水もウソ。ただ、お金をもらって殺しに行くところだけが彼の本音で、あとはもう全部ウソッパチ。世の中を見る目もサラーっとしてて、ハイ終わり、てな男とちゃうかな。 と語っています。

藤田まことはこんな魅力的な時代劇ヒーローらしからぬヒーローを完全に自分のものにし、他の誰にも代わりはいないほど定着させました。役をつくりきるまで6年かかったとも語っています。

見どころ

2-1. 「必殺!THE HISSATSU」仕事人メンバーと殺陣

「必殺!THE HISSATSU」では、仕事人メンバーで刀を使うのは主水だけなので、殺陣らしい殺陣は主水の仕置シーンだけではありますが、他の仕事人達の華麗な仕置シーンもかっこよく、一見の価値ありです。また、今回は主水達と六文銭の一味の対決という仕事人VS仕事人なので、主水達も助っ人を募集し他にも様々な仕事人が登場します。

ここで主水達仕事人メンバーをおさらいすると、

先に紹介した、中村主水と、飾り職人の秀(三田村邦彦)、三味線屋の勇次(中条きよし)に加え、三味線のバチで敵の喉を斬るおりく(山田五十鈴)。おりくは仕事人達を支える元締め的な役割を務めており、主水と同格の凄腕仕事人で、勇次の育ての親でもあります。

そして、忘れちゃならないのが何でも屋の加代(鮎川いずみ)。加代は情報収集を主な仕事としており、仕置シーンでは西順之助(ひかる一平)が作った火炎瓶などを投げたりもしますが、お金にがめつく明るい性格の彼女は、クセのありすぎる仕事人メンバーを仲を取り持ちながら情報収集に走り回っているのでかなり出番が多いです。何でも屋という仕事と性格柄事件に巻き込まれることも多いですが、彼女の役割はとても重要です。鮎川いずみが見事なコメディエンヌぶりを発揮しています。順之介は受験生の若者で、仕事を手伝ってはいますが今回の仕事からは除外されます。

この必殺史上最も有名なメンバーに加え、助っ人として、蝶の紙吹雪の中刃の仕込んだ扇子で敵を仕留める粋な役者の此竹朝之助と瓦職人の政夫婦(芦屋雁之助、研ナオコ)が加わります。他にも助っ人はいましたが殺されたり逃げ出したりしてしまいリタイアとなりました。劇場版はテレビよりもバラエティ色が強いのでリタイヤした助っ人候補達はそういう役割です…。リタイヤした助っ人の一人として赤塚不二夫も出てました。

瓦職人の政は瓦を敵の首に投げつけ一撃で仕留めます。リタイヤした助っ人の中には土に潜る奴がいたり、鳥のくちばしに毒を縫って飛ばしたりと奇抜な殺し技を持ってました。これも劇場版ならではのバラエティ感です。六文銭の一味などは、祭りの際、神輿を担ぎながら仕事人を襲撃して担ぎながら殺すという大胆な技を披露しました。

さて、江戸中の仕事人達を次々と六文銭の一味との決戦の場はなんと人形浄瑠璃の劇場です。今回は劇場の中で主水達の殺しが華麗に行われるわけです。時代にそぐわないですがスポットライトに照らされながら、ケーブルを糸で渡りながら敵に糸を巻き付ける勇次、三味線を弾きながら敵を倒すおりく、そして秀、主水!

まさに劇場型の仕置といった具合で、これを見るだけで必殺仕事人の光と影のコントラストを使った「殺しの美学」を存分に味わえます。

主水以外の仕事人は基本的に刀では戦いませんが、悪党を仕留めるその仕置の所作は何度見てもかっこよく、殺陣で参考に出来る点は、その仕留める際の空気感や、かっこいいキメの部分でしょう。芯が立ち廻りを終えた後の空気感だったり立ち去り方だったりのイメージがわきやすくなるのではと思います。

2-2.中村主水の殺陣

中村主水は「必殺仕事人」の頃になるとあまりチャンバラをやらず、敵を背後から脇差で刺すイメージが強いと思いますが、シリーズに初登場していた頃はチャンバラをやっていました。劇場版でもチャンバラが多く、劇場版第3作の「必殺!III 裏か表か」では屋敷に突入しての大殺陣があります。中村主水は設定でも奉行所内で五本の指に入る腕前だそうですが、強い強い。チャンバラをしていた頃はあっという間に数人斬り捨てます。今作でも、劇場において、向かってきた敵を鮮やかに斬り捨てています。

演じる藤田まことが剣劇スターとして名前が挙がるのは少ない気がしますが、この頃のチャンバラを見ると、いやはやかっこいい。この殺陣は、中村主水役を完成させた彼にしか出来ない殺陣に思います。中村主水の人間性がよく表れています。

一つの特徴は、容赦がないことです。「仕置」の名の通り、ただ斬るだけでなくとどめも刺します。これは、一対一の場合が多いですが、一太刀二太刀斬って戦闘不能になっても、間をおいてさらにとどめの一太刀!計三回くらい斬ります。スピード感もあり、立ち廻りの際に片手振りになることも多く、その時の左手の使い方も上手い。その左手の使い方も一役買って躍動感に溢れる立ち廻りの印象を与えます。

もう一つの特徴は、仕置のためにどんな卑怯な手段も使うその冷徹さでしょうか。同心という役職を利用して「北町奉行の中村でございます。屋敷に不審なものが忍び込んだようですが…。」などと言って近づいて脇差でブスリ。これは主水が権力のある悪党を始末する時によく使う手です。他にも「おい、どうした!」と声をかけてブスリ。一緒にお酒を呑みながら机の下でこっそり刀を抜いてブスリ。「助太刀致します。」と言って前に立つも後ろにブスリなど、卑怯極まりない手を使うまさに「悪を持って悪を制す。」です。

「必殺仕事人」の頃はチャンバラは少なくなり、ブスリ。が大半を占めています。この時の捨て台詞も定番で、例えば「地獄に行ったら閻魔にな、中村主水がよろしく言ってたと伝えてくれ。」とキメます。チャンバラの時も相手の着物で血をぬぐったり、立ち去り方も一仕事終えて家に帰るというようにサラーっとしていて、この辺りも立ち廻り終わりの参考になると思います。

脇差を多用するところも中村主水ならではでしょうか。ブスリ。の時は大抵脇差です。今作でも、敵の中ボス大男につかまれた際に脇差を逆手で抜いて刺していました。敵の脇差を抜いて刺したりもします。

中村主水の殺陣はその一つ一つの所作が「殺しの美学」に溢れており、これは元コメディアンである藤田まことの型にとらわれない柔軟さから生まれたのかもしれません。

【参考文献】

殺陣 チャンバラ映画史            永田哲郎

明星デラックス 必殺仕事人 TVスペシャル  集英社

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