剣客商売 池波正太郎原作の本格テレビ時代劇

目次

1. 作品
1-1.作品情報
1-2.「剣客商売」原作・池波正太郎
1-3.「剣客商売」殺陣師・宇仁貫三
2見どころ
2-1.「剣客商売」の魅力的な登場人物達
2-2.「剣客商売」の殺陣

1.作品

1-1.作品情報

1972年から1989年まで連載された池波正太郎の代表作「剣客商売」を原作とし映像化されたテレビドラマ。全6シリーズ。剣ひとすじに生きる老剣客・秋山小兵衛とその息子大治郎が江戸の悪事を斬る痛快時代劇。主演は藤田まこと。

1998年より始まり、スペシャル版も入れると藤田まことが逝去する2010年までキャストを変更しながら放送された大作シリーズです。今回紹介するのは記念すべき第1シリーズで、秋山大治郎役は渡部篤郎が、女剣士佐々木三冬は大路恵美が務めました。

原作に忠実に丁寧に作られているので、池波ワールドの引き込まれるプロットと味わい深い江戸情緒が感じられる作品となっています。秋山父子が暮らす江戸の人々とのふれあいを混ぜながら、江戸で起きる事件を解決していきます。お城だとか政治だとかは出てこないので堅苦しくなく力を抜いて観られます。また、ダイナミックな殺陣も見どころ。必殺シリーズで活躍してきた藤田まことはもちろんのこと、渡部篤郎と大路恵美も殺陣の名手です。

1-2.「剣客商売」原作者・池波正太郎

池波正太郎は時代小説の第一人者です。代表作は「鬼平犯科帳」シリーズや必殺シリーズの唯一の原作である「仕掛人・藤枝梅安」、「剣客商売」「真田太平記」誰でも一度は聞いたことのある作品ばかりです。今や戦国武将の真田幸村はかなり人気がありますが、このきっかけとなったのが真田太平記です。鬼平犯科帳も長く続いたテレビ時代劇シリーズですよね。中村吉右衛門が火付盗賊改方の長谷川平蔵を演じ、スペシャルを入れると26年間続きました。

池波正太郎は1923年に浅草の地に生まれました。小学校を卒業後、進学はせずに奉公に出ます。その奉公先ではチップをたくさんもらえたそうで、そのチップを使って美味しいものを食べ、映画、舞台、歌舞伎、読書を楽しみ、また旅行にも行き、吉原で遊び、さらには剣術道場にも通ったそうで、この感性豊かな時期にこれらに深くふれたことが後の池波正太郎を形成したのでしょう。池波正太郎は小説家ですが、俳句もやりますし絵も書きます。映画評論家の顔も持っていて、自身が原作の映画もよく見ていたようです。

また、美食家という顔ももっていて、作品にはとても細かい料理描写があることが特徴で、当時江戸で食されていたであろう料理を、剣客商売では美食家である秋山小兵衛が、料理が得意な女房のおはるに作ってもらったり、御用聞きの弥七の店・武蔵屋、そして料亭の不二楼で食べるシーンが小説、ドラマにもたくさん出てきます。池波正太郎の作品に出てくる料理を再現した料理本もたくさん出ていますし、池波正太郎が通ったと言われるお店には、今もファン達が足を運んでいます。

また、浅草下町で育ち“粋”にこだわった池波正太郎は、男はこうあるべきだという「男の作法」という本も書いています。

小説家としては、直木賞、吉川英治文学賞、紫綬褒章など様々な賞を受賞しています。

1-3.「剣客商売」殺陣師・宇仁貫三

剣客商売の殺陣はこの方が振り付けを行いました。日本の時代劇黄金時代を支えた殺陣の第一人者の一人、宇仁貫三(うに・かんぞう)です。宇仁貫三は、あの伝説の刑事ドラマ「太陽にほえろ」の殺陣、剣客商売そして「鬼平犯科帳」のほとんどの殺陣をつけたことでも知られていますが、全盛期は多忙すぎてヘリコプターを使って移動したなんて話もあるくらいですから他にも数えきれない量の作品の殺陣をつけています。思えば、私の大好きな時代劇ドラマの殺陣は大体宇仁貫三が殺陣師を務めていることに気づきました。

宇仁貫三は、三船敏郎と仕事をし、三船敏郎の晩年まで側にいた人物でもあります。三船敏郎との有名なエピソードがあります。20代の時に、黒澤映画の殺陣師として知られる久世竜に師事し、殺陣の技術を磨いていました。しかし当時、身体の小さかった宇仁は切られ役の中には入れてもらえなかったそうです。黒澤監督の「椿三十郎」の撮影時、久世竜に「やってみろ」と殺陣に入れてもらいましたが、黒澤明に、「こんなかわいい坊や、斬れないよ。」と言われてしまいました。そこへ三船敏郎が、「やってみなければわかりませんよ。」と言ってくれたことでやってみたところ、黒澤に「入っていいぞ。」と言われたそうです。このことがなければ、黒澤組に入れず、殺陣師をやめていたかもしれないと宇仁は語っています。その後も三船の出演映画に度々呼ばれ、三船に誘われたことで、三船プロダクションの所属殺陣師になりました。三船敏郎の殺陣の凄さを現場で体験し、三船の死後もインタビューでその伝説を語っています。

近年は、時代劇の未来を憂い、時代劇研究家の春日太一とともに実演付きの講義を行っていました。宇仁貫三の語る殺陣の美学とは、“静と動と間”。殺陣は速ければいい、刀の合わせが多ければかっこいいというのではなく、間の使い方が大事であり、間を上手く使うことによって迫力が出る。私もこのことを大事にし日々殺陣の修練に励みたいと思います。

2.見どころ

2-1.「剣客商売」の魅力的な登場人物

・秋山小兵衛

天下無双の無外流の達人。かつて道場を構えていたが今は隠居して鐘ヶ淵にひっそり気ままと暮らしている。奉公に来ていた百姓娘のおはるに手をつけてしまいそのまま結婚。年の差は41歳。老中・田沼意次(平幹二郎)にも目をかけられておりお金にも困っていない様子で、美味しいものを食べながら気ままに暮らしている。時折小舟で江戸の町にやってきては世のため人にために尽力している。演じるは必殺シリーズで中村主水を演じてきた藤田まこと。藤田まことは必殺終了後の60代で、俳優業で何をすればいいのか迷っていたところ秋山小兵衛と出会い、自ら演じたいとオファーをしたそうです。秋山小兵衛を演じることで迷いが消えたと語っています。

・秋山大治郎

小兵衛が亡き妻お貞との間にもうけた一人息子。小兵衛が剣術の指南をし、武者修行の旅にも出た。今ではいずれ小兵衛をもしのぐと言われている剣客。江戸に道場を構えるも門人は少ない。田沼意次の道場も任されている。かなり真面目で正義感の強い性格。男女のことに疎く、佐々木三冬に惚れられていることになかなか気づかない。演じるは渡部篤郎。渡部篤郎と言えば現代劇の俳優のイメージが強いですが、秋山大治郎役は見事にはまっています。原作では大治郎は屈強な体躯の持ち主ですが、渡部篤郎は線の細い身体ながらも引き締まっていて、剣客としても説得力のある演技で殺陣も素晴らしいです。スケジュールの関係で、第2シリーズまで演じて降板となりました。渡部篤郎にまた時代劇をやってほしい…。

・佐々木三冬

田沼意次の、妾との間に生まれた娘で男装の女武芸者。腕も相当なもので井関道場の四天王の一人。そこらの腕自慢では歯が立たないほどの腕を持つ。初登場時は縁談の話もあったが自分より強い男でなければ結婚しないと突っぱねていた。刺客に襲われた際に小兵衛に助けられたことがきっかけで小兵衛に好意を抱くも、後には大治郎を好きになった。小兵衛、大治郎とともに江戸の悪党に立ち向かう。佐々木三冬を演じるのはドラマ「ひとつ屋根の下」で二女・小梅を演じたことで知られる大路恵美。特技は琴、日舞、殺陣だそうで、その所作の美しさと殺陣の腕が剣客商売で遺憾なく発揮されています。渡部篤郎が降板した第3シリーズでは大治郎は遠出していて不在となっており、佐々木三冬が小兵衛の右腕となって活躍しました。

・おはる

小兵衛が鐘ヶ淵に隠居してから奉公に来ていた農家の娘。小兵衛が手を出してしまい夫婦同然になるも、小兵衛に好意を抱き度々やってくる佐々木美冬におはるが嫉妬したことで祝言をあげた。天真爛漫な性格で感情豊か。料理が得意で、江戸の町で買い出しに出たり小兵衛に来る差し入れの高級食材を使って美食家の小兵衛の腹を満たしている。子供を授かるためにも、小兵衛には精のつくものを食べさせ、頑張らしているようである。おはるを演じたのは、あの国民的ドラマ「おしん」でおしんの子供時代を演じた小林綾子。私の中ではおはるといえば小林綾子というほどにはまり役で、子供のような愛らしさとわがままで小兵衛を困らせています。誘拐されたり事件に巻き込まれてしまうこともありますが、平和主義者で、悪党を諭そうともします。小兵衛宅に悪党を捕えていた時は、縄をほどいてご飯を食べさせ、それがもとで悪党は心を開き知っていることを話しました。

他にも、御用聞きであるが小料理屋の武蔵屋主人の弥七に三浦浩一。弥七は事件の裏を探る役目を担っておりますが、小兵衛の道場に通っていた過去があり素早い身のこなしが出来ます。三浦浩一と、その妻おみね役の佐藤恵利の江戸っ子口調が子気味良いです。弥七の配下の傘屋の徳次郎に山内としお。山内としおは、必殺仕事人でオカマキャラが回を追うごとにエスカレートし名物となった筆頭同心の田中様を演じていましたが、今回は、お調子者だが密偵の仕事はキチンとこなす徳次郎を演じています。そして、小兵衛の行きつけである料亭「不二楼」の女将に梶芽衣子。言わずと知れた時代劇を中心に活躍している大女優ですね。「鬼平犯科帳」でも密偵のおまさ役で登場していました。

これらの人々が剣客商売の主な登場人物です。この人たちがみんなで情報を共有し協力しあって江戸にはびこる悪党を退治していくのです。そして、テレビ版剣客商売のこのキャスト陣は全員役に見事にはまっていて非の打ちどころがありません!(個人的評価)大治郎と三冬は途中キャストが変わりますが、他のキャストは変わらずに12年続きました。

2-2.「剣客商売」の殺陣

剣客商売の殺陣の特徴は、チャンチャンバラバラの速く打ち合う殺陣とは違い、間で魅せる殺陣が多い印象です。相手が大勢の場合は刀を交えず次々と斬り捨てていきますが、相手が凄腕の剣客であったりするとジリジリした間と動いた時のダイナミックさで魅せます。立ち廻り自体は複雑な動きはあまりない印象です。しかし立ち廻りが複雑ではないということはとても見やすいということで、何をしてどうなって決着がついたのかが観ている人にわかることはとても大事なポイントだと思います。そしてさらに大事なことは芝居で見せるということです。立ち廻り自体はシンプルなものでも間と動の使い分け、そして登場人物が何を思って刀を交えているのかなどの芝居をちゃんと見せれば、殺陣はとても面白くかっこいいものになると思います。剣客商売は大治郎の剣客としての成長だったり、天下無双の老剣客である小兵衛の戦い方、そして時代劇ではめずらしい女武芸者の三冬それぞれの持ち味を殺陣に反映させて丁寧に作られています。

第1シリーズのおすすめの殺陣は…、まずは騙されたと思って第一話「父と子と」を観てみてください。前半は小兵衛が三冬を襲おうとした浪人達を無手で圧倒。天下無双の小兵衛は刀は早々に抜かないのです。後半、大治郎が浪人6人に囲まれますが。ここで浪人達を殺さずひじやひざを斬り付けてあっという間に勝利。橋爪功の「決死の気合で相手の肘の筋を斬り、膝の筋を絶つ。それが無外流の峰打ちである。」というナレーションが入りますが、大治郎かっこいい…。渡部篤郎こんなに殺陣出来るのねと驚かされると思います。最後は浪人集団のボス遠藤憲一と小兵衛の一騎打ち。遠藤憲一は凄腕の浪人役似合うなあ…。

続く第2話の「井関道場四天王」もおすすめ。井関道場の跡目争いで殺された大治郎の友、渋谷寅三郎のために大治郎が仇討ちを果たします。大治郎の怒りが見える力強い殺陣になっています。

第3話「まゆ墨の金ちゃん」では、化粧をし白粉をぷんぷんさせた剣客・三浦金太郎はお金で雇われ浪人仲間と二人で大治郎の寝込みを襲います。最初は助勢はしないつもりだった金太郎は、大治郎の強さを見て気が変わり、対決を申し出ますが、大治郎は「ご随意に。」と答えます。大治郎が襲われると知りながら、「知らせずともよいわさ。負けたらそれまで。」と言っていた小兵衛ですが実は心配で陰から見ていたのでした。いつも死と隣り合わせの剣客の生き方が表れている殺陣です。

第1シリーズでは小兵衛も必死の果し合いに臨んでいます。それが第9話「天魔」です。幼き頃に魔物が乗り移り、勝つことを喜びとし道場破りを繰り返しては人を殺める最恐の男、笹目千代太郎に対し、決着をつけねばと立つ小兵衛。軽業を使い高く飛び上がることが出来る千代太郎に、小兵衛はどうやったら勝てるか思案し、果し合いに向かいます。自分にやらせてほしいという大治郎に対し小兵衛は、「それはわしが斬られたあとじゃ。これは残り少ないわしの大事な試合じゃ。」と告げるのでした。

今回は「剣客商売」を紹介しました。剣客商売はとても見やすい時代劇なので、時代劇を観たことがないという人の入り口としてもいいのではと思います。また、時代劇では珍しい女性の侍である佐々木三冬が登場するので、女性の方にもおすすめです。近年は北大路欣也が小兵衛を演じている新シリーズが時折放送されていますね。大治郎は斎藤工を経て高橋光臣。三冬は杏を経て瀧本美織が演じています。そちらもチェックしてみてはいかがでしょうか。

【参考文献】

三船敏郎 さいごのサムライ   著書:毎日新聞社

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