目次
1.作品情報
1-1.作品
1-2.あらすじ
1-3.「三匹の侍」監督・五社英雄
2.見どころ
2-1.「三匹の侍」の殺陣
2-2.五社英雄がこだわった「効果音」
3.最後に
1.作品情報
1-1.作品
1963年~69年にかけて放映されたテレビ時代劇の映画化。1964年作品。テレビシリーズは第1シリーズから第6シリーズまで制作され、民放初の本格時代劇として最高視聴率42%を記録するほどの人気を博しました。
第1シリーズの放映終了後、第1話「剣豪無宿」をベースに映画化。3人の主人公はテレビシリーズと同様、丹波哲郎、平幹二朗、長門勇が務めました。
テレビシリーズでプロデューサー、メイン監督を務めた五社英雄が本作で映画監督デビュー。テレビディレクター出身の初めての映画監督となった五社英雄は、そのエネルギッシュな演出でその後も数々の作品を生み出し、日本映画界にその名を深く刻んでいくことになります。
1-2.あらすじ
旅の浪人、柴左近(丹波哲郎)は、代官松下宇左衛門支配下の村で騒動に出くわす。凶作と重税に苦しむ農民が代官の娘を人質にして水車小屋に立てこもり、年貢の軽減を訴え出たのだ。
持ち前の侠気から農民に加担する柴。悪代官は賞金をつけて不良浪人を差し向けるが、その中の桜京十郎(長門勇)も浪人の味方に。そして代官の用心棒、桔梗鋭之助(平幹二朗)も計略を逃れて駆け付け、三匹対役人の壮絶な死闘が始まった。
1-3.「三匹の侍」監督・五社英雄
時代劇や任侠映画を得意とした、日本映画界にその名を刻む名監督の1人。
映画のエンターテインメント性を重視し、時代劇では立ち廻り、任侠映画では濡れ場の派手な演出に特色がありました
五社英雄はテレビディレクターから映画監督になった最初の人です。1954年にニッポン放送に入社。1958年にフジテレビが誕生すると、フジテレビへ出向し、演出を手掛けるようになります。
1963年に企画したテレビ時代劇「三匹の侍」が人気を博し映画化。
1969年に監督した「人斬り」、「御用金」を年間興行収益ランキングで2作品ともランクインさせる快挙を成し遂げます。しかしその後は仕事、家庭にトラブルを多く抱えてしまいます。
1982年に夏目雅子主演で公開した「鬼龍院花子の生涯」を成功させると、任侠の世界での女性を主人公にした映画を次々と撮り、再び鬼才として日本の映画に君臨しました。
五社英雄は現場が上手く回るために度々大胆な嘘をついていたことでも有名です。病気になって入院した時は、それを現場に知られないためにオーストラリア旅行を装ったそうです。「三匹の侍」テレビ企画の時も、当時第1話を撮って試写を行い、スポンサーがつけば連続ドラマ化されるシステムでしたが、五社英雄は周囲のモチベーションを保つため、最初から連続ドラマであると嘘をついていたそうです。
作品だけでなく、常日頃から人を楽しませることを考え続けていた五社英雄監督。そしてそのためなら自身の人生まで脚色していた生粋のエンターテイナーでした。
2.見どころ
2-1.「三匹の侍」の殺陣
「三匹の侍」は年貢の軽減を命懸けで直訴しようとしている農民を通りがかりの浪人が手を差し伸べ、農民を始末し穏便に済まそうとする代官との闘いというシンプルな勧善懲悪のストーリーで、白黒映画ながらもとても見やすく面白い痛快娯楽時代劇に仕上がっています。
殺陣は盛りだくさんで、主役の3人ともそれぞれかっこいい見せ場があります。「三匹の侍」の殺陣がこんなに面白い一番の理由は主役の浪人3人の存在感ではないでしょうか。
侠気ある正義の剣客・柴左近、ニヒルな色男・桔梗鋭之助、泥臭いが人情もろい桜京十郎。それぞれの性格、価値観の違い、得意とする剣術などがはっきり区別され、完成度の高いキャラクター設定で、画面いっぱいに存在感があふれているのです。この映画はテレビシリーズ第1シリーズ26話分が終わったあとに撮られたので、3人の役作りはすでに完成されていたのでしょう。
殺陣は、剣を振るう人間の人物像、そしてその人物が何のために剣を振るうのか。そういったことが見えてくることによって面白く見えてくるのです。存在感あふれる3人が力を合わせて農民のために闘う姿は本当にかっこいいです。
それぞれの剣術スタイルをあげると、柴は逆手斬りを得意とする正統派の剣客。桔梗は着流しに少し長めの刀を肩にぶらさげている伊達男で、長尺の刀を操るも脇差も使う。桜京十郎は手槍の遣い手であるが刀も使う。と場面によって得物を使い分け、観る者を飽きさせません。役人達との決戦で刀を折られた柴に桔梗が「おい!柴っ!」と自身の刀を投げ渡し、自分は脇差で闘い、柴は敵の剣客・大石玄馬との一騎打ちを桔梗の長尺刀で挑むところも、チームワークと見栄えを意識した憎い演出です。
主役の3人の中でも桜京十郎が強いのなんの。天下無双の強さで一番目立っています。牢に囚われていた時には寝ているところを腕試しで斬りかかられるも難なくかわし、背後から襲われてもとっさに斬り捨て、農民達の味方になってからは差し向けられた浪人達を棒っきれで撃退し、柴が代官所に囚われた時はなんと単身で助けに行きます。まさに大活躍で、柴と桔梗の絶体絶命のピンチに到着した時は、「待ってましたっ!」と心の中で叫びました。
外見はむさ苦しいですが、手槍の遣い手で人情もろく、「~してつかあさい。」当時流行語にもなった「おえりゃあせんのう。」といった岡山弁で話します。演じる長門勇はコメディアン出身の俳優で、桜京十郎役が当たり役となり、以降は時代劇で槍の遣い手を多く演じお茶の間の人気者となりました。「三匹の侍」テレビシリーズの6シリーズ中、主役は入れ替わりがありましたが、桜京十郎だけは全シリーズ登場します。私自身、長門勇の殺陣をこれまで見たことがなかったのですが、今回「三匹の侍」を観てその豪快でスピード感溢れ、そして野獣のようなマネをして牽制するような愛すべきキャラクターの長門勇の槍さばきを見て度肝を抜かれました。
2-2.五社英雄がこだわった「効果音」
「三匹の侍」の主人公達は、3人とも強いですが敵をあっという間に数十人斬るほどの現実離れした存在には描かれていません。柴が代官所の連中を追い返した時は、1人の首に刀の刃を押し付けることで腕を見せつけて退散させました。
1人や2人なら問題なく戦えますが、役人との最終決戦のように相手が数十人の大人数になると、敵の攻撃から逃れ、ひたすら走り続けながら一人づつ斬っていきます。綺麗な剣さばきではありません。時には刀を槍のように振り回しながら牽制し、渾身の一撃で相手の数を減らしていきます。桜京十郎はピンチを迎えていませんが、柴と桔梗は2人で討ち死にを覚悟したように見えました。そんな命懸けの緊迫感に迫力を加えたのが「効果音」でした。
「三匹の侍」はテレビ時代劇で初めて効果音を入れた作品として知られています。刀で人を斬る効果音を初めて使ったのが1961年黒澤明監督の「用心棒」ですが、五社英雄はこの効果音に着目し、刃の合わさる音、刀が空を切る音、そして肉を斬る音などを加えました。当時小さい画面で画質も今とはほど遠い白黒のテレビでの殺陣はどうしても映画の殺陣の迫力に遠く及ばなかったのですが、効果音を入れることで緊迫感と躍動感を加えることに成功しました。それはこの映画版「三匹の侍」にもふんだんに使われています。
五社英雄は音響スタッフとともに取材を重ね、生肉やキャベツ、白菜などを切った音を録音し模索していったそうです。
黒澤明監督を敬愛し、その演出を研究していた五社英雄監督。黒澤明監督の画期的な演出をいち早く自分の作品に取り入れ、さらに工夫を凝らして進化させたのでした。
3.最後に
この頃に作られた時代劇は本当に面白く、そしてパワーに溢れています。1961年に黒澤明監督が「用心棒」でリアリズムの殺陣をやり時代劇に革命をもたらしました。それからの時代劇映画はリアリズムの殺陣が主流になっていきます。この映画がつくられたのはまさにその時代です。
私がこの映画を観たのはもう10年ほど前で、面白かったということは覚えているのですが今回観返して、まさかこんなに面白かったのか!という気持ちでおります。3人が3人ともキャラクターは全然違いますがみんなカッコいい。
個人的に好きなシーンは、柴が、桔梗、京十郎と初めて会うシーン。水車小屋に差し向けられた、2人を入れた浪人達の1人が「5両は俺がもらった。」などと言って柴に斬りかかりますが、柴が即座に逆手の居合で斬り捨てます。このシーンは時代劇映画の中でも傑作のシーンだと個人的に思っております。
ちなみに、テレビ版「三匹の侍」の6シリーズ中、第1~第3シリーズはフィルムが残っていないため、観ることは出来ません。第4~第6シリーズは過去に時代劇専門チャンネルで放送されたことがあるようです。是非再放送を望みます!
【参考文献】
鬼才 五社英雄の生涯 著者:春日太一