『雨あがる』【時代劇映画コラム】

目次

1.「雨あがる」の作品情報
1-1.作品
1-2.「雨あがる」のあらすじ
1-3.「雨あがる」の監督・小泉堯史
2.「雨あがる」の見どころ
2-1.「雨あがる」の殺陣
2-2.黒澤映画と日本刀
3.最後に

1.「雨あがる」の作品情報

1-1.作品

人を押しのけてまで出世することが出来ない心優しい武士と、そんな夫を理解し支える妻の心暖まる絆を描いた時代劇。

山本周五郎の短編小説を原作とし、黒澤明が次回作として準備していた作品。1998年に脚本執筆半ばにして黒澤明が死去したため、20年以上黒澤監督に師事し、5作品で助監督を務めた小泉堯史が残りの脚本を完成させ、監督しました。

スタッフは黒澤組が再集結し、役者陣も黒澤映画にゆかりのある面々がキャスティングされています。

完成した作品は日本アカデミー賞で最優秀作品賞の他数々の賞を受賞し、さらにヴェネツィア国際映画祭で緑の獅子賞を受賞。

その後数々の名作を生み出すことになる小泉堯史監督の華々しいデビュー作となりました。

1-2.「雨あがる」のあらすじ

享保時代、武芸の達人でありながら、人の好さが災いして仕官がかなわない浪人・三沢伊兵衛(寺尾聰)とその妻たよ(宮崎美子)。

妻は、人を押しのけずに人々に希望を与える夫を暖かく見守っているが、職のない伊兵衛は日々妻に申し訳なく思っている。

旅の途中、折からの豪雨が夫婦を河畔の宿場町に足止めさせる。やがてその雨があがる頃、城主にその腕を偶然認められた伊兵衛は、藩の剣術指南番に招かれるが…。

1-3.「雨あがる」の監督・小泉堯史

カメラマンとして世界を放浪する一方で、1970年黒澤プロに参加。黒澤明監督の弟子として脚本執筆を手伝い、1980年の「影武者」以降5作品で助監督を務めました。

初監督作品監督「雨あがる」で数々の賞を受賞。その後も、「阿弥陀堂だより」「博士の愛した数式」など、常に上質な映画を送り出して来ました。

2018年の時代劇映画「散り椿」では脚本で参加。最新監督作品は2020年公開を控えている「峠 最後のサムライ」です。

デジタル技術が発達した今でも、昔ながらの技法である、35ミリフィルムカメラを使い3台のカメラで一発撮りする「ワンシーン・ワンカット」にこだわり、ワンシーンごとに役者の心の機微を見逃さない緊張感のある映像を作り上げます。役者にとっては、まるで舞台上で演技しているように感じるそうです。

黒澤組で培った技術を、時代劇が少なくなった昨今でも自身の映画でふんだんに使っている小泉監督の映画がこれからも楽しみです。

2.「雨あがる」の見どころ

2-1.「雨あがる」の殺陣

「雨あがる」の主人公、三沢伊兵衛は無外流の達人で、劇中では敵なしの強さです。しかしとても人が良く、劇中では現代風の丁寧な敬語で話し、妻にも敬語で話します。

「刀は人を斬るものではない。自分の馬鹿な心を斬り捨てるために使うものです。」と話し、劇中では一人も人を斬っていません。

華奢な身体つきでありながら向かって来る敵は体術だけで無力化するほどに強く、刀を抜くシーンでも、刀の刃の逆の峰(みね)で相手を叩く「峰打ち」で敵を次々と打ちのめしていきます。

「雨あがる」の殺陣の特徴は、これほどまでに強い伊兵衛の表現の仕方です。

刀は構えずに下げ刀で肩の力を抜き、相手の剣の中をするするとかわし、後の先で仕留めます。力んでかかって来る相手は伊兵衛の敵ではなく、身体の使い方にあきらかな差があります。

身体の脱力は実際の武術においても極意であり、相手の力の起こりで動作を見抜き、脱力の身体でさらりとかわし、後の先で仕留めることは、理想的な動きと言えるかもしれません。知っていてもなかなか出来ることではありませんが…。

また、ちょっとした動きだけで相手を止めたり、相手の懐に潜り込んで柄頭(つかがしら)を突き付けたりと、他の時代劇ではなかなか見られない所作も見られます。

そして伊兵衛は勝った後、「大丈夫ですか。怪我はありませんか。」と気遣って、相手をさらに傷つけてしまい、それが原因で仕官が上手くいかないという設定も面白いです。

伊兵衛がなぜここまで強くなったのかの経緯も劇中で語られていますが、これもまた伊兵衛の人間性ならではの面白い設定です。

三船史郎扮する藩主の豪快な槍との勝負も見どころです。

2-2.黒澤映画と日本刀

「雨あがる」には刀にフォーカスを当てたシーンがたくさん登場します。

長雨で安旅籠に足止めを喰っていた伊兵衛は雨があがると、身体を動かしてくると言って一人森に入ると刀を抜き、居合の型をいくつか振ります。

伊兵衛役の寺尾聰は、この映画のために居合を半年習ったそうです。このシーンでは抜刀から納刀まで空気感をしっかり見せてくれます。

他にも、剣術指南番候補として城に招かれた際にも、藩主に「差料を拝見したい。」(さしりょう→自分が差している刀のこと)と言われ刀を見せます。この刀は師である無外流の剣客・辻月丹(仲代達矢)からもらった刀で、これを丁寧に拝見した藩主は、「刀は武士の魂と言うが、実に見事じゃ。」と感嘆します。伊兵衛は旅籠に戻ると妻に、「この刀、大変褒められましてね。」と嬉しそうに話します。

黒澤映画にはこのように、刀にフォーカスを当てたシーンが散りばめられています。

「七人の侍」では、孤高の剣客・久蔵(宮口精二)が深夜単身敵の陣地に赴き、数人斬り伏せ、鉄砲を奪って帰って来ると、刀を愛おしそうに抱き眠ります。菊千代(三船敏郎)は、敵との決戦に備え、「一本の刀じゃ五人と斬れん。」と言って、抜き身の刀を何本も地面に差し、それを持ち替えながら敵と戦います。これは、刀で人を二人も斬ると血と脂肪で使い物にならなくなると言われているところから来ています。

「用心棒」では役者に本物の刀を差させて撮影し、腰がふらつかないようにしました。

黒澤監督は映画の中で刀を丁寧に丁寧に描き、刀に存在感を与え命を吹き込みました。

これは、弟子である小泉監督にもしっかり受け継がれています。

3.最後に

「雨あがる」は人を憎まない心優しい浪人、伊兵衛と、そんな夫を時には優しくたしなめながらも立て続ける妻との夫婦愛と、それを取り巻く人間模様が美しく、観終わった後にほっこりする作品です。

寺尾聡扮する伊兵衛の、腕は立つがとてもそんな風に見えない物腰柔らかすぎる人間性が面白く、また心地よいです。こんな風な人だったらと人間性を取り入れた殺陣を考えてみると、面白い殺陣が出来そうですね。

原田美枝子、松村達雄、井川比佐志、仲代達矢といった黒澤映画を支えた名優達が脇を固め、それぞれの演技が光ります。

一見奔放で猛々しくも、人を好み、伊兵衛の弱いところも理解しようとした藩主・永井和泉守重明役の三船史郎がいい味を出しています。

伊兵衛が城からの帰り道に、町道場の連中に囲まれる殺陣があります。よく殺陣で、「絡みがザザッと出る。」という指定があるかと思いますが、この殺陣の囲まれ方を見るとイメージがしやすいのではないかと思います。

1時間半と比較的短い映画ですが、時代劇の魅力が存分に詰まっているので、時代劇を観たことがない人にもおすすめの一本です。

【参考文献】

週刊日本刀   著者:デアゴスティーニジャパン

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